たったひとつの冴えたやり方
○アレルサイド
「でやあぁぁっ!」
我ながら大げさだな、と思うほどの大声を出しながら、僕は動く鎧のモンスター――『さまようよろい』に全力の一撃を繰り出した!
当然、剣を振り終えたときの隙は大きいけれど、いまは前後のコンビネーションを気にする必要はない。なぜなら――
「――たあっ!」
一歩踏み込んで放たれたクリスの拳が、その鎧の腹に叩き込まれる! 隙だらけに僕に向けて剣を大きく振り上げた『さまようよろい』の腹に、だ。つまり、僕の役割は最初からオトリ。これが僕たちがこいつと戦うことになって、急いで練った戦法だ。
腹部をへこませ、後方へと吹っ飛ぶ『さまようよろい』。その勢いで地面に何度も身体を打ちつけ、やがて完全に沈黙する。そうなってようやく、緊張をとく僕とクリス、そしてルーラー。
レーベを発って四半日ほどが過ぎた頃、『いざないのどうくつ』に向かって草原を渡っていたときのことだった。そりゃ、ここまでも割と頻繁にモンスターと戦ってはきたけれど、『さまようよろい』の強さは僕の考えていたものよりも遥かに上で。
あの強さは『じんめんちょう』や『アルミラージ』のそれとは根本的に違っ言い表すのなら、あれは『正攻法』の強さ。身のこなしや呪文で相手を惑わせて戦いを己に有利なように運ぶのではなく、ただ純粋に『力』のみをもって敵を叩き伏せる。あれは、そういう強さだった。
『いざないのどうくつ』からロマリア大陸に渡ったら、そういうタイプのモンスターとも頻繁に刃を交えることになるのだろうかと思うと、少しだけ気が滅入ってくる。……まあ、それで弱音を吐いたりなんて、するつもりはないけどさ。
「でもよかったよ。ホイミスライムを呼ばれる前に倒せて」
ホイミスライム? ああ、そういえば戦闘中にそんなことを言ってたっけ、ルーラー。
ちなみに彼はいまの戦いの間、ひたすら『さまようよろい』から距離をとることだけに専念していた。僕はそれを悪いとは思わない。だってそれは、それぞれに向き不向きがある、というだけのことだから。
ルーラーは『いざというとき』のために呪文を唱える力を温存する。それでいい。
「なにせ、ホイミスライムを呼ばれるとかなり厄介なことに――」
そこまで言って、ルーラーがなにかに驚いたように口を閉ざした。彼の視線の先に目をやると、先ほど確かに倒したはずの『さまようよろい』がゆっくりと、しかし、しっかりとした足取りで立ち上がろうとしている。
「……あのクリスの一撃をくらって、まだ倒れてなかったのか? いや、あれのパラメーターを考えれば間違いなく……。あれじゃHPの高さだけなら『じごくのよろい』――いや、『キラーアーマー』並だ……」
ぶつぶつと、よくわからないことをつぶやくルーラー。けれどいま考えるべきはそんなことじゃないはずだ。
剣を構えなおした僕の間合いに瞬時に入り、剣を振るってくる『さまようよろい』。それを受け止めようと僕は剣を前に出す! しかし、
「ぐっ……、重……っ!」
先ほどまでと比べて、明らかに膂力(りょりょく)が上がっている。思えば先ほどまでは瞬時に間合いを詰められるなんてこともなかった。まさかこいつ、一度倒されてからパワーアップして起き上がってきた……!?
そんなことがあるのか、と思う気持ちはあるものの、いまはそんな考察をしている場合じゃない。このままじゃ、いずれは押し切られ……!
「――意操衝霊弾(クラッシュ・ウェイブ)!」
焦る僕の耳に、ルーラーが呪文を放つ声が届いた。同時に剣にかかっていた圧力が消え、『さまようよろい』が横に飛ぶ。そうして目に入ったのはルーラーの呪文によって生じたのであろう黒い帯(おび)が僕のほうへと向かってくる姿!
「危ない! アレル避けろっ!」
圧力が消え、たたらを踏んでいる僕にクリスの叫びが遠く聞こえる。黒い帯は速度を落とさずに僕に迫り――唐突に軌道を変えて『さまようよろい』を直撃した!
黒い帯に身体を撃たれ、ごろごろと地面を転がる『さまようよろい』。
「…………。えっと……?」
ま、曲がった? いや、『さまようよろい』を追尾した? そういう呪文だったのか……?
再び立ち上がり僕たちから距離をとる、動く鎧のモンスターを呆然としながら見てしまう。その耳にルーラーの発した舌打ちが届いた。
「あれを食らってもまだ倒れないのか……。いくらなんでも……異常だ」
いまの一発でルーラーの呪文は打ち止め。舌打ちしたくなる気持ちもわかる。
視界の端でクリスが拳を固めるのと同時、『さまようよろい』が手にしている剣を天へと突き上げた。
――一体、なにを……?
首をかしげる僕とは対照的に、ルーラーが焦った口調で叫ぶ!
「マズい! 仲間を呼ばれた!」
仲間って、まさか――!
僕が気づいた次の瞬間、『さまようよろい』の全身を淡い光が包み込んだ。慌ててあたりを見回す僕。
――いつから、だったのだろうか。『さまようよろい』の影に隠れるように、ホイミスライムが一匹、そこにいた。
鎧の戦士に『ホイミ』をかけたホイミスライムへと、クリスが瞬時に肉薄する! 腹部のへこみが直った『さまようよろい』もまた、一息の間に僕の懐へと入ってきた。迎え撃とうと慌てて剣を構えなおすも――
「――くっ!?」
わずかに遅れ、右腕を浅く薙がれる! そして剣をかみ合わせ、再びの硬直状態。しかし、利き腕に怪我をしている以上、すぐ押し切られるのは目に見えている。クリスやルーラーの援護も期待できないし、このままじゃ――
――刹那!
どこからか飛びきた氷のつぶてが『さまようよろい』を直撃する!
いまのは、もしかして『ヒャド』の呪文? でも一体誰が――
どこか呆けたままに、つぶての飛びきた方向に顔を向ける。そこにあったのは、一組の――十代の男女の姿。少年の顔は『どこかで見たことがあるような……?』くらいのものだったけれど、もう一人の、少女のほうは――。
不意に吹いた一陣の風が、青いマントをたなびかせる。その身にまとっているのは白色の、ミニスカートタイプのワンピース。そしてその白が、少女の腰まである青い髪をより美しくみせていた。顔立ちは『美しい』とはちょっと違うけれど、十人に訊いたら九人までが『可愛い』と評するだろう、そんな、顔立ち。
それは、僕がよく知っている顔。物心がついた頃にはすでにそばにいて、つい最近まで毎日のように見ていた顔。もう、しばらくは見ることは出来なかったはずの顔。そして、本当は……本当は、ずっと一緒にいたいと――共に旅をしたいと思っていた幼馴染みの顔。
その彼女が、いま、目の前にいる。僕の幼馴染みの少女――リザが。
彼女は僕のところまで駆け寄ってくると、ボンヤリと突っ立っている黒髪の少年に指示を飛ばした。
「モハレ! まずホイミスライムをやっつけちゃって! 『ホイミ』を使われると厄介だから!」
「わかっただ! リザ!」
『ひのきのぼう』を携えて、クリスに加勢するようにホイミスライムのほうへと駆け出すモハレという名らしい少年。
続いてリザは『さまようよろい』が不意打ちのショックから立ち直っていないことを確認するように鎧の戦士に目をやり、怪我を負った僕の右腕に手をかざした。
「――ホイミ」
淡い光が僕の腕を包み、みるみるうちに傷が塞がる。それから耳に小さく届く、リザの動揺を含んだ声。
「大丈夫? アレル。一応、傷は塞がったと思うけど……」
リザは『さまようよろい』に視線を固定していた。おそらく、だから呪文にちゃんと集中できただろうかと、一抹の不安があるのだろう。
「大丈夫。助かったよ、リザ」
まあ、なんで彼女がここにいるのかとか、どうしてあの少年と旅をしているのかとか、疑問に思うところはあるけれど。
リザは僕に微笑み――はせず、真剣な表情で尋ねてくる。
「でも、まさかアレルがザコモンスターに苦戦してるなんて、ね。なにか特殊な能力でもあるの? あの『さまようよろい』」
「わからない。ただルーラー――僕の旅の連れは『異常だ』ってこぼしてた。とにかくタフなんだよ」
「……突然変異種かなにかなのかしらね。――っと、アレル、くるわよ!」
ショックから立ち直った『さまようよろい』が横薙ぎに剣を振るってきた! バックステップでかわす僕と、思案顔で背を向け、全速力で鎧の戦士から距離をとるリザ。
「これで――おしまいっ!」
『さまようよろい』から充分に距離をとったリザの隣では、クリスがホイミスライムに正拳を叩き込んでいた。わずかに浮遊していた身体が地面に落ちる。どうやらホイミスライムは倒せたようだ。僕もクリスと合流しようと剣で『さまようよろい』を警戒しながらジリジリと動く。
――と、リザとクリスの話し声が風に乗って耳に届いてきた。
「――要は、あの鎧を壊せればいいのね?」
「ああ、けどものすごく硬くてね。リザっていったっけ、『ルカニ』は使えないかい?」
「守備力を下げる呪文ね。あれはなかなか難しくて、わたしには、まだ。なんていうか、わたしもまだまだ未熟よね〜」
「そんな悠長なことを言ってる場合かい。なにか打開策を考えないと――」
「大丈夫。あの鎧をどうにかするテはあるから。――そうね、熱膨張を利用するのはどうかしら? ああいう鎧は、熱した直後に急激に冷やすと一気に脆くなるから。その逆もまたしかり、ね」
「……よくわからないけど、熱するなり冷やすなりした直後に逆のことをやれば倒せる、と?」
「そこに強力な打撃を加えれば、ね。――さて、熱する呪文を使えるのはわたしとアレル、冷やす呪文を使えるのはわたしだけ、か。と、すると――」
「じゃあ、熱するのはあんたとアレルがやっとくれよ。アタシは熱することも冷やすことも出来るから、冷やすほうに回ることにする」
「えっ!? そんなこと出来るの!? でもパワーバランスを考えるなら、メラ一発、ヒャド一発のほうが――」
「なに。アタシの技はたぶん、ヒャド二発分に相当すると思うよ? 熱する技のほうも熱量はメラ二発分くらいだろうし」
「…………。そう、じゃあお願い。――あ、アレル! 作戦決まったわよ!」
ジリジリと動き、ようやく合流を果たした僕にリザが告げてきた。
「聞いてたよ。すぐ実行に移そう」
「そうね。でも『さまようよろい』に斬りつけるのはアレルの役目になるだろうから、メラを撃つ前に――」
リザが呪文を唱える。しかしそれは攻撃呪文ではなく、
「――スカラ!」
瞬間、僕の身体をオーラが包んだ。物理攻撃の威力を軽減してくれるオーラが。
「これで少しくらいの打撃はオーラが受け止めてくれるわ。――さあ、じゃあ始めましょう!」
僕とリザが詠唱を始めると同時、クリスが深く腰を落とす。そうして――
「凍覇絶衝拳(とうはぜっしょうけん)!」
振りぬかれた彼女の拳から、強烈な冷気が放たれる! そしてそれにやや遅れて、
『――メラッ!』
僕とリザの放った火の玉が『さまようよろい』に直撃! それを視界に認めて僕は鎧の戦士へと駆け、とどめとばかりに剣を振るう!
「たあぁぁぁっ!」
凍覇絶衝拳が直撃した一瞬あと、剣はかわされることなく『さまようよろい』を捉えた!
しかしあたりに響いたのは苦鳴の声でも鎧にヒビの入る音でもなく。
信じられなかったから、だろうか。硬質なだけのその音が、鎧の戦士が僕たちの連携に耐えきったことを示していたというのに、僕はどこか呆然としたままで奴の剣での一撃を食らっていた。もちろん僕の身体を包むオーラがいくらか勢いを殺してくれてはいたものの、完全に防ぎきることもまた、出来なかったわけで。
熱さを伴った痛みが腹部に走る。
――熱い、あつい、アツイ……!
地面に転がってのたうちまわれば、あるいは少しは痛みが和らぐかもしれないけれど、我を失うほどのダメージはなく、そんな隙をみせずには済んだ。そんな熱を――痛みを抱え込んだまま戦わなければならないというのは、あるいは見苦しくのたうちまわるよりも辛いことなのだろうけれど。
――抱え込む?
いきなり、思考が飛躍――いや、暴走する。それは、僕にしか理解できない感覚。勇者の血を引く人間以外、わからないであろう感覚。――そうか。いままで魔法剣が失敗し続けたのは、だからだったのか……。
「――リザ! クリス! もう一回だ!」
大声を張り上げる。
体力的にみて、僕が剣を振れるのはあとせいぜい一回か二回。だからこれは、最後の攻撃。失敗は、許されない……!
僕の意図を汲み取り、『凍覇絶衝拳』を繰り出すクリス。メラを放とうと掌を『さまようよろい』に向けるリザ。そこで僕はサイドステップし、リザに叫ぶ。
「こっちだ! リザ!」
戸惑いの表情を浮かべる彼女。クリスの『凍覇絶衝拳』が鎧の戦士に直撃するのを視界に捉え、僕は焦る。
「――早く!!」
伊を決したようにうなずき、掌を僕へと向けるリザ。
「――メラ!」
――それで、いい。
思えば僕は、剣に取り込んだメラをいつも、剣の中に閉じ込めようとして、暴発させていた。そうすることで威力を発揮する魔法剣も、おそらくはあるのだろう。でもメラは――メラ系は、違う。メラ系の魔法剣は――
剣を横薙ぎに振るい、火の玉を斬る――メラを取り込む。僕はいつもここから失敗していた。メラの魔力を剣に封じようとして。――違うのに。火は器に容れるものじゃない。そのまま持ち歩けるものじゃない。
火は――メラ系の魔法剣は、火の望むままに力を放出させるべきだったんだ。僕はそれにほんのちょっとだけ指向性を与えるだけで、それだけでよかったんだ。だって、抱え込んで立っているよりも、のたうちまわるほうが器(からだ)はずっと楽なんだから。
メラをまとわせた剣を、僕は返す動きで『さまようよろい』の腹部に滑らせる。薙ぐというよりは、刀身で撫でるぐらいの勢いで。
指向性は与えた。あとは解き放たれるに任せればいい。
――瞬間、剣が爆発を起こした! しかし、暴発じゃない。暴発のときは爆発のエネルギーが拡散していた。いまはエネルギーがほぼすべて、目の前の敵へと向かっている。
鎧が砕けた。
持っていた剣が地に落ちた。
『さまようよろい』を、倒した――。
僕は剣を地面に突き刺して、杖のようにする。まだ座り込むのは早いと、直感が告げていたから。
『さまようよろい』は倒した。なのに、目の前には変わらず気配がある。敵意が、ある。鎧を操っていたのであろう、禍々しい『なにか』が僕を見ている。存在しないはずの、その瞳で。
敵意は殺気へと変わり、僕に収束した。同時、僕に突進してくる黒い『なにか』。
――身体を奪われる!
そう思ったのは、なぜだろう。
「――ニフラム!」
聞こえたのは、リザの声。彼女の使った『アンデッドを消し去る呪文』が、僕に向かってきていた黒い『なにか』を消滅させる!
こうして、リザがいなければ負けていたであろう戦闘は、ようやく幕を閉じたのだった――。
○バラモス城
「アハハハハハハ! いや、面白いこともあったもんだなぁ! アハハハハハハ!」
唐突に、無邪気に笑いだした魔人王メフィストに、バラモスと『やまたのおろち』、そしてミノタウロスの視線が集まった。戸惑いと恐れの混じった、その視線が。
笑い終えたメフィストはやがて、静かに告げる。
「ボクの配下、負けちゃいましたよぉ。正直、予想外でした」
「――なっ!? どういうことだ、メフィスト! 勇者アレルは――」
「ミノタウロスさんにも敵わない、ちょっと強いだけの人間、でしたっけ。そうですねぇ。いまのままなら、そうでしょうねぇ。でも――」
一度、言葉を切るメフィスト。その瞳にはなぜか、喜びの色があった。
「勇者アレル! 勇者アレル! いやいや、これはなかなかに期待できそうだ! もしかしたらオルテガよりも強くなるかもしれない! アハハハハハハ!」
再び笑うメフィスト。なにがそんなに面白いのか、メフィストはアレルのなにに期待しているというのか、しかしそんなことはバラモスたちにはどうでもいいことだった。
メフィスト・フェレスはいま、なんと言った? 『オルテガよりも強くなるかもしれない』? それは、恐ろしいことだった。アレルの存在を見過ごしてはおけない。
しかし、バラモスには現在、手駒がなかった。彼の配下で強力な力を持っているのは、せいぜい三匹。各地で暴れさせているモンスターは山ほどいるが、それは果たしてアレルを倒せるだろうか。メフィストの配下を倒したという、勇者アレルを。
バラモスのその思考は、しかし、幸か不幸か中断させられることになる。ジパングから使いとしてやってきた、ベビーサタンによって。
「ご報告します、バラモス様!」
玉座の間に入ってきたベビーサタンが、その甲高い声で告げる。
「ジパングにて『パープルオーブ』が発見されました!」
「なにっ! 本当か!?」
目を大きく見開き、思わず玉座から腰を浮かせるバラモス。そしてメフィストもまた、珍しいことにピクリと眉を動かしていた。その反応も無理はない。6つすべてを集めた者は『大いなる翼』を手に入れるといわれているオーブのひとつが、ジパングで見つかったというのだから。
『大いなる翼』がなんの比喩なのかは、わからない。だがバラモスは――いや、メフィストもそれを『なんらかの強大な力』と解釈していた。そしてそれを手に入れようと、どちらもがあちこちに配下を放っていた。事実、アレルたちと死闘を繰り広げた『さまようよろい』も、本来はオーブを探し出すためにアリアハン大陸に送り込まれていたのだ。
「これはもう、ベビーサタンなんて小物に任せておくべきことじゃありませんねぇ、バラモスさん」
「う、うむ……」
「勇者アレルの動向を気にしている場合じゃありません。『やまたのおろち』さんに行ってもらいましょう」
「――い、いや、それは……!」
バラモスはメフィストの提案に異を唱えた。
ミノタウロスはいざというときのために手元に残しておきたかったし、別の場所にいる自分の配下を向かわせるのも時間がかかる。
である以上、メフィストの提案は当然のものだ。しかし、果たしてアレルを放置しておいていいのだろうか。各地で暴れているモンスターにアレルの抹殺を任せていいのだろうか。それはあるいは、アレルの成長をいたずらに手助けしてしまうことにならないだろうか。
オーブのことがなければ、いや、それを一旦放置してでも『やまたのおろち』はアレルの抹殺に向かわせたい。それがバラモスの本音だった。
「バラモスさん。『やまたのおろち』さんに出撃命令を出してください」
「――し、しかし、それは……」
首を横に振るバラモス。メフィストはそれでもなお、同じ提案を繰り返す。言葉をバラモスの頭にすり込もうとしているかのように、一語一語、ゆっくりと。
「パープルオーブが見つかったんです。一刻も早く手に入れたい。バラモスさんだって、そうでしょう?」
「…………。それは、当然だ……」
「なら、『やまたのおろち』さんを向かわせましょう? ね?」
しばしの沈黙。
――やがて。
バラモスは小さく、しかし確かに首を縦に振った――。
――――作者のコメント(自己弁護?)
2008年最初の小説をお届けします。ルーラーです。
今回は初のボス戦となっております。ボスの名は『さまようよろい』。しかしただの『さまようよろい』ではなく……、という感じですね。
また、この戦闘の最中にリザとモハレがアレルたちに合流しました。というわけで、ここからは5人パーティーとなります。
それと、このボス戦でアレルは魔法剣を修得しました。やっぱりこういう『必殺技』みたいなのはボス戦で修得させたかったんですよね。そのほうがドラマチックですので。……え? 修得したのが早すぎる?
いえいえ、そんなことはありません。なんせ、修得できたのはまだ『メラ』の魔法剣だけですから。他の系統の魔法剣は『メラ』と同じ感覚で使うことは出来ませんからね。また、『メラ』の魔法剣にしたって、まだ使いこなせるようになった、とは言いがたかったりしますし。
それはそれとして、今回は終始、戦闘を描いたわけですが、果たしてスピーディーかつ読みやすい展開になっているでしょうか? また、矛盾はないでしょうか? それだけが気がかりです。特に『魔法剣』の描写に関しては、完全に『アレルにしかわからない感覚』として処理してしまっているので、うまく伝えられているかどうか……。
では、そろそろサブタイトルの出典を。
今回は『スパイラル〜推理の絆〜』(スクウェア・エニックス刊)の第二十話からとなっております。意味は本当にそのままなのですが、あれは果たして『冴えたやり方』なのかどうか……。そこに関しては、まだまだ議論の余地がありますが、まあ、あまり突っ込まないでおいてください。
いつか、こういうタイトルも使いこなせるようになりたいものです。本当に目を瞠(みは)るような展開を描いてみたいものです。
それでは、また次の小説で会えることを祈りつつ。
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